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大阪高等裁判所 昭和47年(ラ)306号 決定

抗告人 杉本志良

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一、抗告の趣旨および理由は別紙のとおりである。

二、本件についての当裁判所の判断はつぎのとおりである。

(一)  事実関係

本件(昭和四六年(ケ)第二二号およびこれに添付された昭和四七年(ケ)第一五号事件)および別件(昭和四二年(ケ)第二三号およびこれに添付された昭和四六年(ケ)第二一号事件)不動産競売申立事件記録によると、つぎのとおりの事実関係が認められる。

(1)  別件および本件の各競売目的物件ならびにこれらに設定された各抵当権について、別紙第一物件目録記載の不動産三筆(後に、分筆により同目録記載の六筆となる。)および機械三点(以上の不動産および動産を、以下第一物件と言う。)、ならびに第二物件目録記載の不動産四筆(以下第二物件と言う)は、いずれも、抗告人の所有であつたが、

(イ) 第一物件について、各物件を共同担保として、

第一順位に、債務者株式会社第一建材、抵当権者和歌山県信用保証協会(以下保証協会と言う。)、債権元本極度額三〇〇万円、遅延損害金日歩五銭の根抵当権(但し、第一物件中の機械三点を共同担保に含まない。)、

第二順位に、債務者抗告人、抵当権者新宮協同金融株式会社(以下本件債権者と言う。)、債権元本極度額四〇〇万円、損害金日歩九銭八厘の根抵当権(但し、共同担保として第一物件中の機械三点を含む。)、

の各設定登記があり、

(ロ) 第二物件について、いづれも抗告人の債務について、各物件を共同担保として、

第一順位に、新宮木材協同組合(以下木材組合と言う。)を権利者とする債権元本極度額二〇万円、損害金日歩四銭の根抵当権、

第二順位に、金商株式会社(以下金商と言う。)を権利者とする債権額二〇万円、損害金年三割六分の抵当権の各設定登記があり、

(ハ) 第一、第二物件について、本件債権者に対する抗告人の債務について各物件を共同担保として、

いづれの物件についても第三順位に(但し、第一物件の第一、第二順位担保権と第二物件の第一、第二順位の担保権は、互に被担保債権を異にする別個の担保権であることは前述したとおりである)、債権元本極度額一五〇万円、損害金日歩八銭二厘の根抵当権(但し、共同担保として前記機械三点を含む。)の設定登記があり、

(ニ) 第一物件全部および第二物件のうちの(六)の物件について、第四順位として、各物件を共同担保として、債務者抗告人、抵当権者三和銀行株式会社(以下三和銀行と言う。)、債権元本極度額一五〇万円、損害金日歩四銭の根抵当権(但し、共同担保中に第一物件の機械三点を含む。)の設定登記があつた。

(2)  競売申立および請求金額について

(イ) 昭和四二年六月一日、第一物件の第一順位の担保権者である保証協会が前記根抵当権に基いて第一物件(但し、機械三点を含まず。)に対し、請求金額元金一八二万二、一四〇円およびこれに対する昭和四二年四月七日以降日歩五銭の割合による損害金につき競売を申立て、別件(昭和四二年(ケ)第二三号)として原審に係属し、同月一三日競売開始決定があり、

(ロ) 次いで、昭和四六年七月二〇日、第一物件の第二順位の担保権者である本件債権者が、右第二順位の根抵当権に基づいて、第一物件(機械三点を含む。)に対し、請求金額二〇八万七、三四六円および内金一五一万〇、八八六円に対する昭和四四年一二月一日から支払いずみに至るまで日歩八銭二厘の割合による損害金につき競売を申立て、昭和四六年(ケ)第二一号として係属し、即日、別件に記録添付の手続があり、

(ハ) 同日、第一、第二物件の第三順位の担保権者である本件債権者が、右第三順位の根抵当権に基づいて、第二物件について、請求金額六六万五、八〇〇円および内金一〇万円に対する昭和四四年一二月一日から支払いずみに至るまで日歩八銭二厘の割合による損害金につき競売を申立て、本件(昭和四六年(ケ)第二二号事件)として係属し、即日競売開始決定があつた。

(3)  競売の経過について

(イ) 原審は、別件について、競売目的物件全部の一括競売の最低競売価額を一、二六〇万円と定め、本件について、競売目的物件の最低競売価格を、(五)、(六)の両物件の一括競売は八八万二、〇〇〇円(七)の物件は四二万二、〇〇〇円、(八)の物件は二六七万二、〇〇〇円と定め、両事件の競売期日を昭和四七年六月二六日に開いたところ、

(ロ) 別件については、最低競売価額と同額の一、二六〇万円の最高価競買申出があり、本件については、(五)、(六)の物件の一括競売につき、最低競売価額と同額の八八万二、〇〇〇円の最高価競買申出があつたが、その余の物件については競買申出なく、

(ハ) 同月二八日、別件および本件について競落期日を開き、別件については、全競売目的物件についての前記最高価競買申出に対し、本件については、(五)、(六)の物件についての前記最高価競買申出に対し、それぞれ競落許可決定を言渡した。

(4)  本件についての競落許可決定後の経過について

本件について右競落許可決定があつて後、即時抗告期間内の昭和四七年七月五日に、本件の債務者兼物件所有者である抗告人から、右競落許可決定に対して、本件の競売手続が過剰競売に当ることを理由として即時抗告の申立があり、ついで、右抗告申立の結果競落許可決定が確定しないうちに、昭和四七年八月七日、第二物件の第二順位の抵当権者である金商から同物件に対して同抵当権に基づいて競売申立があり、昭和四七年(ケ)第一五号として原審に係属し、同事件は即日本件に記録添付された。

(二)  法律関係

(1)  本件競落許可決定言渡し当時における同決定の違法について、

以上の別件および本件の競売手続の経過から明らかなように、別件における第一物件の一括競売の最高価競買申出額一、二六〇万円は、別件および本件の当時の競売申立人らの請求金額全部の合計額(すなわち、第一物件の第一ないし第三順位の各抵当権の被担保債権の現在高の合計額に当る。)と、第一物件の第四順位抵当権の元本極度額およびその利息、損害金を加算した額と、別件の競売費用との合計金額を、少くとも一〇〇万円以上超過する金額であつて、右別件の競落代金をもつて本件の競売申立債権も完済されるべき事態にあつたわけであるから、競売法三二条二項により準用される民訴法六七五条の趣旨にかんがみて、本件における第二物件のうち(五)、(六)の不動産についての最高価競買申出に対しては、競落を許してはならない関係にあつたわけであつて、これを看過して競落を許可した原決定は、後述の記録添付がなければ、原審または当審において取消されるべきものであつた。

(2)  競落許可決定言渡し後の記録添付の効力について

競落許可決定言渡し後にその競売目的物件に対して新たな競売申立があつても、右新競売事件を在来の事件に記録添付することは原則として許されない。ただ、例外として、競落許可決定を言渡した時点において競売を申立てた抵当権の被担保債権が欠缺していたために、その競落許可決定が取消されるべき関係にある場合に、その競売目的物件に設定された他の抵当権に基づいて、競落許可決定の確定前にその目的物件に対して新たな競売申立があり、右新申立に競売開始決定をなすべき要件が具備していて、在来の競売手続には前記被担保債権の欠缺以外に競落許可決定を取消すべき瑕疵がないときには、右記録添付は有効と解するのが相当である。けだし、右の場合には、新申立事件のために在来の競売手続をできるだけ利用するのが、競売手続の簡易、迅速、安価をもたらすのに役立ち、且つ、そうしても別段の弊害が認められないからである。

過剰競売であるために競落を許可することが法律上許されないにもかかわらず、誤つて競落許可決定をした場合は、その競落代金をもつて支払われるべき債権が存在しない点では、前記抵当権の被担保債権の欠缺の場合と同様であるので、その競売目的物件に設定された他の抵当権に基づいて、競落許可決定の確定前に同物件に対し新な競売申立があり、右新申立および在来の競売手続に前述の諸要件が具備しているときには、被担保債権の欠缺の場合と同様に、在来の事件に対する新申立事件の記録添付は有効であると解するのが相当である。

(3)  本件の記録添付の効力について

本件競落許可決定に対して抗告人から抗告の申立があり、同決定は過剰競売に対するものとして、原審の再度の考案または当審の裁判により取消されるべきものであつたところ、右取消の裁判前に、第二物件についての第二順位の抵当権者である金商から第二物件に対し競売申立があつたので、原審が右新申立事件を在来の事件に記録添付をしたことは前述のとおりである。また、一件記録に徴すると、右新たな申立は競売開始決定をなすべき要件を具備し、且つ、原決定には前記の過剰競売であつた点を除いてこれを取消すべき瑕疵があることを認めることができない。よつて、本件の記録添付は有効で、本件競落許可決定は新競売申立に基づく競売手続に関し言渡されたものとみなされる。そうすると、右記録添付により、原決定に存した過剰競売の瑕疵は除去され、原決定にはこれを取消すべき瑕疵はないことになつたわけである。

(三)結論

以上の理由により、原決定は結局において相当であるので、本件抗告を失当として棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 長瀬清澄 岡部重信 小北陽三)

(別紙)

第一物件目録〈省略〉

第二物件目録〈省略〉

(別紙)

抗告の趣旨

原決定を取消し、更に相当の裁判を求める。

抗告の理由

債務者兼本件不動産の所有者たる抗告人は債権者たる新宮協同金融株式会社に対して昭和四四年参月拾五日和歌山地方法務局新宮支局、受付第一三七九号を以つて共同担保目録(あ)参二八〇号記載の債務者所有不動産に就き根抵当権設定を登記しましたが、昭和四十六年(ケ)第二二号事件として共同担保目録の第三番、第(五)番、第(六)番、第七番に就き昭和四六年七月二〇日競売申立をなし、昭和四十七年六月二十八日目録(3) の不動産(7) の不動産に就き競落決定がなされました。

共同担保目録中第(1) 番、第(2) 番及第(4) 番の不動産に就きすでに昭和四二年(ケ)第23号不動産競売事件として開始決定がなされ、昭和46年(ケ)第22号事件の競落決定と同日の昭和四七年六月二八日に競落が決定されました。そしてこの競売代金は壱千弐百六拾万円でありまして、この売得金を以つて昭和四六年(ケ)第二二号競売申立債権者の債権は、さきに記したる如く、共同担保にて担保されていますから充分に弁済する事が出来競売申立人の債権を満足さす事が出来ので四五年(ケ)第22号の競落決定は無用のものと存じます。まして、この競落決定により抗告人はその所有権を失うこととなり多大の損失を被ることとなるのであります。

よつて抗告の趣旨の裁判を求めるため本申立に及ぶしだいです。

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